新潟県三条市の小高い丘陵に広がる5万坪ものキャンプ場。スノーピークの本社は、その緑豊かな敷地の一角にある。開放感あるお洒落なオフィスの窓からは、週末・平日問わず、お客さまがキャンプを楽しんでいる姿を見ることができ、いつも目の前にユーザーがいて、その声や反応をダイレクトに感じることができる。「『スノーピークの本社はこういうイメージであってほしい』そんなお客さまの期待に応える施設にしたかった」と社長の山井太はそのコンセプトを説明する。
同社の創業は1958年。父親である先代が金物問屋としてスタートした。その後すぐ、自らの趣味だった登山に着眼し、オリジナルの登山用品を開発・販売する。「今ないもの、自らが求めるものをつくる」という姿勢は、当時から受け継がれた同社のDNAだ。
現社長の山井は1986年に同社に参画。時代はちょうどバブルに向かうころ。経済は成長し、生活も豊かになったが、山井には気になることがあった。「それは自然の中で過ごす時間、人と人とのつながりが減っていたことです。私は子どものころ、キャンプをしたり魚を取ったりしたそんな経験が、自分の心を豊かにしてくれたと実感しています。そういう機会をもっと社会につくりたいと思いました」
そこで着眼したのがオートキャンプだった。「それまでのキャンプは、学校の行事で行くものか、お金をかけずにできる行楽の一つの手段。しかし社会はもっと心豊かな時間を求めているはず。ちょうど4WDブームの時期でもあり、自動車をシーンに組み込むことで、新たな価値を提供できると考えたのです」
それまでキャンプに使うテントと言えば、1万円かせいぜい2万円。しかし同社はなんと16万8000円という、文字通り桁違いの価格設定で新製品を販売した。周囲からは「高すぎる」「そこまでよいものにしなくても」と訝しげな反応がほとんどだったが、これが初年度から100張を売り上げた。ハイエンドのキャンプ用品市場が誕生した瞬間だった。そしてその後、同社の製品を通じて、アウトドアライフの大きなムーブメントが巻き起こっていくことになる。
製品開発も働き方も顧客への向き合い方も、「スノーピークウェイ」がすべての原点
現在、同社のアイテムは600種類ほど。いずれも高付加価値のこだわりの品が並ぶ。そして、スノーピークの製品開発には大きく二つの特徴がある。一つは地元、燕三条のモノづくり力の活用だ。「この町にはおよそ2000社もの金属加工会社が集積しています。その加工力はそれぞれに個性がありとても高い。そういう環境に日ごろから触れているため、より現場を熟知し、その力を生かす企画やデザインができるのです」もう一つは同社の根幹をなす価値観「スノーピークウェイ」にある、
「自らもユーザーであるという立場で考え、 お互いが感動できるモノやサービスを提供します」という考え方だ。見ている先は「お客さまの笑顔と満足」。それを山井は「真北の方角」と表現し、絶えず事業の中核に置く。
「私たちは、これまでにない製品をつくることがミッションのため、市場調査、競合対策などはしません。その分、キャンプ
研修などでとことん実地経験を積むなど、社員全員がユーザーとしてお客さまの求めるものを考える。『こんなものが欲しかった』と言ってもらえるものを世に出していくのです」
さらに、製品の企画からデザイン、製造ラインに乗せるまでの全工程を一人の担当者に任せるのも同社の特徴で、製品に対する思い入れも、仕事へのやりがいも非常に強いものになるという。「永久保証」という同社の掲げた方針も、社員の開発意欲
をより高めることになっている。
しかし今でこそ右肩上がりの成長を続ける同社だが、厳しい時代もあった。ブームが去った1994年以降は、6年連続で売り上げが減少。最盛期の半分近くまで落ち込んだのだ。そこで1998年、打開策として顧客と向き合うキャンプイベント「スノーピークウェイ」を実施。これが、その後の大きな転換点となった。
集まったユーザーと膝突き合わせて語り合ったとき、「値段の高さ」「品揃えが十分な店がないこと」が、強い要望として挙がったと言う。そこで販売ルートをすべて見直し、正規特約店と直販ルートのみに集約。価格ダウンの実現と充実した店舗網の確立により、再成長への礎が築かれたのだ。
スノーピークウェイはその後も、毎年6〜9回のペースで開催されており、この「社員、経営者と顧客との距離の近さと、密度の濃さ」が、同社の製品群の魅力を倍化。熱狂的な「スノーピーカー」をつくり上げていくことになった。
非キャンパーの人間性を取り戻す機会の増大を
2015年11月、同社は表参道とニューヨークにアパレルの旗艦店をオープンした。ここでは、「Home ⇌Tent」をコンセプトに「都市と自然の境界をなくす服」「都市生活でも自然の中でも心地よく過ごすことができる服」を提案。さらに多店舗展開を目指している。「実はオートキャンプの人口は、日本人の約6%でしかない。残りの94%の非キャンパーに〝人間性を取り戻す機会〞をどう提供していくのか。これが私たちの今後のミッションなんです」
その「アーバンアウトドア」実現のために、大手不動産会社やリフォーム会社との提携も進む。「庭先や公園でランチをしたり、友達が集まってパーティーをしたり、そういう文化を広めていきたい」と山井は意気込みを語る。「キャンプをすることで、身体が自然のリズムとシンクロし、本来持っている人間のリズムを体感することができます。天気や季節の違いごとの楽しみ方もあり、自然をより身近に感じる機会でもあります。それは私自身、仕事においても非常にプラスの効果を感じており、そういう環境をより広くつくっていきたいのです」
そして展開はグローバルへ。現在約30%を占める海外売り上げを、米国、韓国、台湾などへの攻勢でさらに拡大、世界が誇るアウトドアブランド確立への挑戦が続く。
1959年、新潟県出身。明治大学卒業後、外資系商社勤務を経て、1986年スノーピークに入社。アウトドア用品の開発に着手し、オートキャンプのブランドを築く。1996年代表取締役に就任。毎年40~60泊をキャンプで過ごすアウトドア愛好家。
株式会社スノーピーク
〒955-0147 新潟県三条市中野原456
TEL 0256-46-5858
設 立 : 1958年7月
資本金 : 9952万円
社員数 : 192名
売上高 : 78億5400万円(2015年12月期連結)
上 場 : 2014年12月11日(東証マザーズ)2015年12月11日(東証1部)
事業内容 : アウトドア用品などの企画・製造・販売
http://www.snowpeak.co.jp/
※ダイヤモンド経営者倶楽部著「ザ・ファーストカンパニー2016」より転載