日本酒業界で「働く」をよりリアルに! 学生主導のインターンマッチングイベントを開催

「日本酒ブーム」という言葉が、最近さまざまなメディアを賑わせている。もちろん、これまでにも幾度となく「ブーム」はあったが、それらとは少し違うのは、国内・海外に広がる和文化への関心が背景にあり、普遍的なライフスタイルとして定着を見せてきていることであろうか。「日本を代表する食文化の一つ」として、”ごく当たり前に”お酒を味わい楽しむ、そんな風潮が増えてきているように感じる。

とはいえ、その関心は「飲む」「味わう」など消費者目線のもの。その文化を支える「蔵元の経営」にまで思いを馳せる人はまだまだ少ないかもしれない。

909_589670611186655_1987491214543905276_n

その点にスポットを当てた学生発の企画が、1月14日に開催された、「求む!未来の醸造家!日本酒のグローバルマーケター!」というインターンシップイベントだ。「日本酒を飲む」そして「日本酒を好きになる」にとどまらず、「だったら、その好きな業界で働いてみたい」その入り口を作ろうというものだ。

学生日本酒イベント

今回の会場である東京農業大学など専門領域の学生であれば、授業内に実習で「蔵元で働く」を経験できる機会はあるが、その他の学生にとっては、日本酒業界の経営をのぞき見る機会は滅多にないだろう。そもそも「働く場所」として想起することすらないかもしれない。だからこそ、こういう機会は非常に新鮮だし貴重といえる。

業界に詳しい人に聞いたところでも、「東京」で「オープンな形」で、インターンマッチングイベントをした例はほとんど記憶にないという。

主催者は「学生日本酒協会」という文字通り学生主導の任意団体(学生団体)だ。3年ほど前に設立され、「学生を中心とした若い世代に、日本酒の魅力を伝え理解してもらうこと」を目的に、これまでにもさまざまなイベントを開催している。過去には「食と農林漁業大学生アワード2013」でグランプリ(農林水産大臣賞)を受賞した実績を持ち、今回は、その活動の裾野をさらに広げる新たな試みといえる。

20160114-3

代表の伊澤優花さんによると、今回の狙いは大きく以下のようになる。
①酒蔵を一就職先として認知してもらう
②酒蔵とは(職場として)どんなところなのかを知り、興味をもってもらう
③業界のトップランナー、一流の人の情熱とかっこよさに触れさせ、その道を志すきっかけを作る。

そして以下のような目的意識を持って、インターンシップという形を構想した。
①面接ではわからない人柄、適正をじっくりみる
②上の者の判断だけでなく実際に現場で一緒に働く人たちとの相性をみる
③求職者本人の期待していたこととの乖離を小さくし早期離職を低減させる
④酒蔵側に、自分たちが選ばれる側である意識をもたせる。(インターンを受け入れるにあたり、意欲ある者がここで働きたいと惹きつけられるような環境であるのか、見直すきっかけを与える。)

20160114-5

ここでポイントになるのは、タイトルにある「日本酒のグローバルマーケター!」という言葉になろう。冒頭にも少し触れたように、海外での日本酒熱の高まりは非常に高い。実際に海外進出に力を注ぐ蔵元は増えているし、売り上げの伸びが顕著な蔵元も多い。

しかし後の講演の中でも話題にあがったように、それを主導する人材を擁する蔵元は非常に稀だ。語学力はもちろん、グローバルなコミュニケーション能力やビジネスセンスなど、これまでの蔵元経営とは、また大きく違った能力が求められてきているからだ。

すでに実績を上げている蔵元であっても、多くの場合トップ自らの行動力に依存しており、それ以上に、「チャンスがあることが分かっていても、具体的なアクションを起こせないまま」である場合が圧倒的だという。

でもだからこそ大きなチャンスがある。働く側の意識と能力で、新たな可能性を切り拓いていける素地が非常に大きいと考えられる。

20160114-4
▲伊澤さんが力説していた「日本酒が世界平和をもたらす」の図の一部

当日集まった学生は100名弱ほどだろうか。北は山形、南は高知から、大学もさまざま。講演終了後の質疑も積極的に手が挙がり、交流会において蔵元の周りには常時多数の学生が参加。その熱意は強く感じられた。

今回のプログラムは大きく3つ。

・蔵元による講演 
・インターンを募集する蔵元からの会社説明ならびにプログラム紹介
・各蔵元のお酒を飲みながらの全体交流会

参加した蔵元は、以下5社になる。

20160114-6
▲ 南部美人(岩手県二戸市)

1997年の日本酒輸出協会立上げに関わり、日本酒の海外進出を先導してきたパイオニアと呼べる存在だ。その経験に基づいて、海外で高まる日本酒熱などのマーケットの現状と可能性、その流れの中で業界が若い人材を強く求めていることなどを熱く語られた。

20160114-7
▲ 盾の川酒造(山形県酒田市)

国内で唯一(2016年1月時点)、全量純米大吟醸に切り替え、日本酒の質にとことんこだわってきたこと。そして「TATENOGAWA100年ビジョン」を掲げ、理念やビジョンを大切にし、クレドカードを作成するなど現代的な理念経営を行っている話が印象に残った。

20160114-8
▲ 仙台伊澤家 勝山酒造(宮城県仙台市)

仙台伊達家の御酒御用酒屋として320年の歩みを持つ、仙台の地を代表する蔵元で、製法やテロノワールにこだわった高級酒を得意とする。縁あって以前、蔵を訪ねたことがあるが、お酒造りに対する丁寧さ、真摯さが非常に印象的だった。一方「杜の都の迎賓館」と呼ばれる高級レストラン経営や食材開発、調理師学校運営など、幅広い事業を展開している。

20160114-9
▲ 酔鯨酒造(高知県高知市)

働く人の待遇を非常に大事にし、(ここでは公開できないが)話の中に出てきた年収基準は、地方の酒造会社としては「まさに別格」(業界通談)の金額。他の業界含めても、高知の中でトップ水準の待遇なのではないだろうか。また、同社のグループ母体である旭食品が、年商4,000億円ほどの企業であることを知り、「(恐縮な表現だが)そんな大企業が、高知の地場企業にあるのか!」と驚かされた。

20160114-10
▲ 平和酒造(和歌山県海南市)

登壇された後継専務は、人材系ベンチャーを経て入社という、少し変わった経歴を持つ。入社当時は「99%がパック酒」ということで、品質的にもまだまだだったものを、その後大きく向上させた。「会社の姿勢とお酒の味は比例する」という言葉が印象的だった。また二冊の書籍を出版するなど、業界の枠を超えた日本のモノづくり力の底上げにも尽力している。

20160114-11

それぞれの蔵元の話の内容は、単に知らないことが多く新鮮だったというだけでなく、これまでに多くの経営者を取材してきた目線からしても、非常に学びの多い内容だった。

もちろん、それは主催者のセレクト力の高さが背景にあり、同じ水準で経営を語れる蔵元は限られているのかもしれないが、「これからの可能性」を感じさせるという点では、新進ベンチャーの経営者の話とも十分伍するかそれ以上であった気がする。

20160114-12

今回は、具体的に「インターンシップに参加する」ための企画であるため、「もともと日本酒業界で働くことに興味があった」人が主たる対象だったと思うが、「これまで考えたこともなかった」人でも、話を聞けばこの業界に興味を持つことは十分考えられる内容だった。

特に最近は、「日本文化に関わる仕事をすること」と「グローバルでビジネスをすること」双方に関心がある若い層が増えていることを顕著に感じており、であれば、業界の現状と可能性を知る「気軽な入り口」を作ってあげる機会も併行してあると良いなと思った。

20160114-13

もう一方で、「蔵元で働くこと」のイメージ。多くの場合、蔵元は中小企業でありファミリー企業。職人文化が強く残る閉鎖的な業界でもある。

その中で、どんなキャリアステップのイメージが描けるのか。頑張ればどんな道が開けそうなのか。それは多くの学生や求職者にとって未知数ではないだろうか。

これまではどうだったのか。もしくは、今まではまだ事例は少なくてもこれからどう組織を作ろうとしているのか。そういう開示がもっと進むといいなと思った。

20160114-14

つい最近筆者は、50年100年続く老舗企業を特集する書籍を発刊したが、その中で感じたのは「ファミリー企業だからこそ、歴史の長い企業だからこそ可能な先進性がある」ということ。それは一言でいうと、「トップの責任のもと、(目先にとらわれない)中長期先を見据えた大きな英断がしやすい」ことだ。

今回参加した蔵元の方々はまさにそういうタイプの企業であり経営者であると思うし、そういう可能性が、「働く場所」という視点で、もっと伝わる環境が増えればいいなと思う。

20160114-15

代表の伊澤さんの今回掲げた目標にもある「酒蔵を一就職先として認知してもらう」と「酒蔵側に、自分たちが選ばれる側である意識をもたせる」がストレートに交わることで、まだまだこの業界には大きな可能性が生まれることだろう。ひょっとすると、遥か昔から続く古典的なビジネスでありながら、実はまだ黎明期の業界と言えるかもしれない。

20160114-16

今回の講演の中でも、「日本酒業界は、日本のビジネスの先端モデルになりうる」という話があった。「国内の人口は、これから減少の一途をたどり続けるが、日本酒業界はすでに40年も市場が縮小し続けている。であればいま私たちが手掛けていることが、将来の日本社会のロールモデルになるのではないか」というのがその理由だった。

そのためにも力を入れなくてはいけないのが「本物を作ること」「本物だけが生き残っていく」取り組みだが、今まさに「本物の酒が認められやすい」環境が世界的にも広がりつつある。これは、働く側としても非常にモチベーション高まる状態ではないだろうか。

20160114-17

日本酒業界によりよい出会いの場を創出できるように、働く側・受け入れる側双方がより高いレベルで相乗できるように、この企画がさらに継続発展していくことを願っている。

なお、今回の酒蔵インターンのエントリー受付は1 月 28 日(木)までとのこと。詳しくはこちらから

(ダイヤモンド経営者倶楽部 北村和郎)





























































































































READ  2016新春賀詞交歓会のご案内